「わたしと黒」VOL.2 藤田澄香

「わたしと黒」

藤田澄香

「黒」という言葉で思い浮かぶものは何だろう。
静謐さ、落ち着き、猫、夜、闇、恐怖……。以前はわたしもそういうイメージしかもっていなかったが、その認識を変えてくれたのが食の体験だった。

コロナ禍になる前のサンフランシスコで、散策がてら立ち寄った現地で有名なアイスクリーム屋さん。そのときにオーダーしたのが「メスカル・ミッドナイト」というアイスだった。

メスカルというメキシコのお酒を使っているのが珍しかったし、クールなネーミングに惹かれて頼んでみた。

やがて目の前に現れてきたのは真っ黒なアイス! ひと口舐めてみると、メスカルのスモーキーな風味とブラッドオレンジの鮮烈さが口の中で弾けて、ビックリしたのを覚えている。

スタッフの話によると黒い色の正体は竹炭で、メスカルやブラッドオレンジという強い個性をうまく包み込んでいた。

「味覚は視覚から」と言われるが、それをまじまじと実感した瞬間で、アイスクリームの自由さに触れた貴重なひと時だった。

そして2020年の夏。東京・渋谷の某バーで体験したのが、カクテルのブラインドテイスティング。

色のない、真っ暗闇の世界で究極的に味覚と嗅覚を研ぎ澄まし、さまざまな風味を感じたり、推測したりするのはとても刺激的な時間だった。

そういう体験を経て、「黒」はわたしにとって自由の象徴ともいえる色になってきた。色や形、肩書や権威にとらわれない、完全に独立した自由で豊かな色。

思えば、アウグスト・ザンダーやアーヴィング・ペンのモノクロ写真、ジャームッシュやカラックスのモノクロ映画など、意識することなくモノクロームの世界に遊ぶ自分がいた。最近では、水墨画のフェード感のある世界感も気になってきている。

わたしにとってアイスクリームはスイーツでもあり、料理でもある。まさに黒と同じく、多様性や豊かさを表現できる自由の象徴なのだ。

⁡---------------------------------------------

kasiki 藤田澄香プロフィール

1990年、茨城県生まれ。
大学を機に上京後、様々な飲食業に携わる中でアイスクリーム制作に目覚める。2019年に「kasiki」を立ち上げ、ポップアップを中心に活動。
添加物は一切使わず、旬のフルーツにハーブやスパイス、お酒などを組み合わせ、四季の香りをアイスクリームで表現する。コーヒーやワイン、ファッションとコラボしたイベントも行うなど、これまでにないアイスクリームの魅力を伝えている。2022年に店舗オープン予定。

Instagram:@kasiki__